『経営理念がなかなか浸透しない、と嘆いていませんか?』
私が中期計画策定の支援を開始して10数余年、計画策定の際には必ず経営理念の構築について考えて頂きます。とは言っても一筋縄ではいかないので、ここから構築に向けてステップを踏んで進めていくのですが、そのきっかけになる時間を作れれば、と思っているのです。
又、既に経営理念が存在する場合は、どの様な思いの元に現在の商売を始め、現在に至っているのか、を改めて再確認して頂き、経営理念に対する思いをクリーニングして頂いています。
どの経営者も経営理念に託した意味や事業への思いは深いものがあり、素晴らしいの一言に尽きます。
短い言葉に思いを重ねたもの。文章にしたためたもの。色々なスタイルがありますが、共通して言えることは、どの経営者も「なかなか従業員に浸透しない」と口にすることです。
◎ 従業員に浸透させる為に何をしている?
社内の壁に貼っている。朝礼時に唱和をさせている。クレドカードにして全従業員に持たせている。経営理念について勉強会を開催している... 等。
皆さん経営理念の浸透の為に様々なことを行っています。凡そ上記に記したことは多くの会社で実施していることだと思います。
ただそれぞれの効果を考えると...、やっていて意味があるのかな?といつしか感じ始め、その内色々な言い訳を大義名分にしてやらなくなってしまう。もっと他に効果ある方法があるのではないか...。
◎ 実は、経営理念を浸透させる特効薬はありません
経営者の事業への思い、何故この事業を営んでいて何を世の中に発信しようとしているのか?それは、もともと経営者個人の思いです。経営者がこの世に生まれどの様な家庭環境で物ごころ付いたのか、そして幼少期に両親を始め周りの大人たちにどの様に育てられたのか、大きくなってきて多感な時期にどんな出会いがあり何を感じたのか、社会に出た後どんな人生の師に出会い何に気付かされたのか、そしてこの社会で全うすべき使命に気付き現在の事業を営んでいるのです。
それに対して従業員は、最も早く入社しても高卒で入って18歳、大卒で21歳を超えています。中途であればもっと年齢を重ねています。
経営者がオギャーと生まれてから現在に至るまでと同じ年月が彼等従業員一人ひとりにも存在し、全く違った環境の中で人格形成がなされ、入社してくるのです。
入社の決め手にはその会社の経営理念に共感した、という方もいるでしょう。
しかしそれは共感しただけです。まだ共感してくれた人はいい方です。しかしそれではまだ自身のこととして府には落ちていない状態です。全く価値観の違う全くの他人だというこの事実を認識しなければなりません。
◎ では何をしなければならないのか
人は正しいことに対して、仮にまだ今の段階では腑に落ちずピンと来なくても、常に意識し続けてさえいれば、ある時あるきっかけを持ってその正しいことに対し心から納得します。
ここで、少し話はそれますが「人への感謝」という題材で考えたいと思います。
私の息子が所属する少年野球での話ですが、常日頃、監督やコーチのお父さん達は、子供たちに「野球は一人でやれているのではないよ」ということを事有るごとに伝えています。
「毎朝早く起きてお母さんがおいしいお弁当作ってくれること」「本当は監督やコーチも仕事が忙しいのに休日グラウンドで野球を教えてくれること」「キャッチボールは相手がいるからできること」「ライバルのメンバーがいて、あいつには負けまいと思えるからこそ練習で頑張れること」「そもそも野球は9人以上いないと試合に臨めないこと」「相手チームがいないと試合が出来ないこと」「グラウンドがあるから野球が出来ること」「グラウンドは誰が作ってくれたのか」「グラウンド整備を誰がやっている?」
考えれば尽きません。こう考えれば決して一人で野球をやっているのではなく、色々な人に支えられて初めて出来るのです。
が、多くの子供はあまりピンと来ていません。「そうなのかな?」「言われればそうだけど...」と決して腑に落ちていません。
でもそれでいいのです。子供によって成長度合いが違います。もちろん気付いている子もいます。心から感謝している子もいます。そういうものです。今気付いていない子も成長した時に必ず気付きます。それは大人になった我々が、皆これまで生きてきたどこかのタイミングで気付き、腑に落ち、独りで生きている訳ではなく生かされていることに気付き、心から感謝出来ているからです。
先日、子供たちのチームの先輩で、この秋「プロ野球ドラフト会議」でベイスターズの育成枠1位で指名された高校3年生の網谷君が子供たちに話してくれました。
アドバイスを求められた網谷先輩は、
「感謝に早く気付いた子が人として成長したことを意味しますし、その瞬間から野球も急激に上手くなります。だから今はわからなくても「感謝」という言葉をいつも意識して生活してください。大丈夫、いつか必ず気付きますから。でも出来るだけ早く気付いてください。早く気付けば早い時期から野球がうまくなりもっと好きになりのめり込めます。僕から話したいことはそれだけです」
これは真理だと思いました。我々大人たちは、子供たちに「感謝」という言葉を忘れない環境を維持していくことと考えています。意識させ続けようとしています。
話を元に戻しますが、人それぞれ成長段階があることは会社における従業員も同じです。
経営理念について、「言っていることはわかるけど、正直腑に落ちない。」それでよいのです。「全くウチの従業員と来たら・・・」と決して悲観する必要はありません。
もう一度言います。そんなものです。価値観が全く違く人間が集まっているのです。
そこで、経営者がやり続けるべき事。それは、経営理念の浸透について良かれと思うことを続けることです。上記に記した、大抵の会社が行っていること、「朝礼で唱和する...等々」を続けて下さい。経営理念に触れ続ける環境を維持してください。意識し続けられる様に仕向けて下さい。「そういうものだ」という発想から理解は始まります。
真剣に考え抜かれた経営理念の内容は素晴らしいものです。その内容は近江商人の「三方よし」を言い当てているものが殆どであり、それを経営者それぞれの言葉で実感を込めて表現しているのが経営理念です。それは“正しい”ものです。正しいものにはいつしか人は心から気付き、腑に落ちます。ただその時が訪れるのが全ての従業員が同じタイミングではないので、色々な角度からあらゆる方法、あらゆる表現を使って経営理念のシャワーを浴びさせ続ける事。そうしていく中で、いつかどこかのタイミングで誰かが気付く。
それだけ地道で気長な作業。それが「経営理念を浸透させる」ということなのです。
※私が関わった多くの経営者による「経営理念の浸透」チャレンジの中で、結果が出やすい共通した手段も見えてきました。ご紹介します。
経営者が従業員に向けて、いつも経営理念について触れることは大事なことですが、単純に棒読みして聞かせているだけでは、従業員にとって飽きてしまい苦痛なことに他ならず、浸透作戦としては逆効果になり兼ねません。経営理念のシャワーで大事なことは、経営理念の内容にまつわるエピソードや日頃の出来事など、生きた情報として経営者の言葉で変換して伝えることです。
そうすることで、一見経営理念とは関係ない話を聞いている感覚で従業員は受入れ、よくよく考えてみれば経営理念で社長がいつも大切なこととして話してくれていることだ、と気付かせることで浸透効果が高まるのです。ぜひ試してみて下さい。
コンサルタント 神谷 武